よい子わるい子ふつうの子

18禁PCゲームをメインに、ラノベや漫画についてもダラダラ話を書きます。長文多いです。

2012/04/13(金) 09:09:12

柊鰯00
(C)活動漫画屋 画像はDiGiket.com様より転載

タイトル:『柊鰯』(活動漫画屋/2012年1月6日)
原画:なかばやし黎明/シナリオ:夕街昇雪
公式:http://ugainovel.blog112.fc2.com/
批評空間レビュー投稿:済 → ネタバレ有り
定価:1500円
評価:B(A〜E)
備考:非18禁(一般)ノベルゲーム/Adobe AIRアプリ(Ver2.6準拠)/音声無し
販売:DiGiket.com(DL販売)。体験版有り
参考:えび様の批評空間感想(ネタバレ無)


批評空間様にレビューを投稿しています。ネタバレ有りにしてありますが、ストーリーに突っ込んだ話はしたものの、致命的なバレは一応防いだつもりです。ただ、本当に興味ある方しかご覧にならないだろうということで楽しみを削ぐといけませんから、念のため「バレ有」にしておきました。気にならない方、プレイ済の方はよろしければご笑覧ください。

本レビューは、主にネタバレを無しにして作品を紹介するとともに、諸事情から上記レビューでは書ききれなかった部分について触れたいと思います。

なお、ネタバレ無しの感想としてえび様の感想へのリンクを上記に記載させていただきました。大変読みやすくまとまっており、魅力が端的に伝わる内容なので、未プレイの方はご参考までに。

▼物語
同人シナリオライター、安治川鰮(あじがわ・いわし)。35歳。童貞どころかキスもしたことありません、という今時奇特な純朴青年……を通り越してオッサンが主人公。明治・大正の文士に憧れていると言えば聞こえは良いですが、要はまだ何者でもない無職。偉大なる魔法使いにして半ニート、小説家ワナビーという素晴らしい青年です。一応、家持ち(遺産)なのが救いでしょうか。しかし、ゴミの山に埋もれてコンビニ弁当で生活する様子には、恐ろしいシンパシーを感じてしまいました。男の一人暮らしって気を抜くとすぐああなります、マジで……。

今日できることは明日やる、が重なりすぎて、結局何もできませんという絵に描いたような自堕落な日々を送る彼の元に、14歳の可愛らしい、けれど無表情な「家政婦さん」がやってきたところから物語は始まります。少女の名は、木津川柊(きづがわ・ひいらぎ)。どうやら同人サークルのリーダーである天保山桜(てんぽうざん・さくら)が、鰮の生活を改善させるために手配した模様。はじめは自分の生活圏を荒らされることを嫌って拒絶していた鰮ですが、東日本大震災で居場所を失ったという話を聞いて、鰮は打算と同情から、彼女の身元を引き受けることを決意します。

鰮を誰よりも昔から、誰よりも深く理解している女性、桜。そして突然やってきた可憐な少女、柊。本作は、この2人を交えて描かれる恋愛模様。震災後の日本を舞台に、そこに暮らす人びとの心の交流を描いた物語です。

▼感想
本作をプレイしたきっかけは、えびさんがツイッターで大絶賛しておられたからというのもありますが、それ以上に、美麗なグラフィックに一発でKOされたから、というのが大きかった。販売サイトさんなどで掲載されているサンプル画像をご覧になればおわかり頂けると思いますが、凄い良い感じだなあ、と。

柊鰯01
押しかけ家政婦こと柊さん。14歳。あなたのほうがきれいです。

いやー、柊ちゃんも桜さんもくぁーわーいーいー! 鰮さんも絵を見る限りめちゃめちゃイケメンですし、なんか畜生っていう感じです。田舎というか、ちょっと都会とは違う「昔ながらの地域」に独特の雰囲気がよく出ている作風で、火鉢とか和服メインなのが、大好物の私にはたまりません。CG枚数は少ないのですが(差分無し8枚ほど)、立ち絵の衣装が豊富で、充分満足でした。

さて、公式の紹介などでは、「ただのんびり暮らすだけのお話し」となっていますが、無邪気にイチャイチャとかほのぼのという感じはあまりありません。どちらかといえばむしろ、序盤から重たさを感じさせる内容のほうが多い。暗澹たる話では決してありませんが、どちらかといえばしっとりとかしんみりとか、そちらのイメージのほうが近いでしょうか。それはやはり、「震災」ということを扱ったため。

本作にどのようなテーマを読むか、というのは人それぞれで良いとしても、このご時世に「震災」を取りあげるというのはやはり問題含みで、どうしても作品にとっての必然性が問われる。そして、批評空間さんのレビューでも同じことを書きましたが、私は本作が震災を取りあげる意味はあったと考えています。

もちろん、震災に関連して行われたさまざまな心ない言説や差別をとりあげることでユーザーにまっとうな対応を呼びかけるという社会的(啓蒙的、と言った方が妥当かもしれません)な意義もありますが(その意味で「常識」的なラインは確保してあります)、それ以上に、「当事者性」という問題を扱う上で震災というのは非常にタイムリーかつ強い力を持っているということが大きいでしょう。

「当事者性」とはどういうことか。端的には、「不謹慎厨」のような事件を思い出して貰えれば良いかと思います。

震災の直後、私たちの周りには「被災者の気持ちもしらないで」とか、「被災者でもないくせに」といった言葉が溢れました。阪神淡路で私が被災したという話はレビューのほうにも書きましたが、実感として今回はそれ以上に勢いが強く、被災していない人が《自主的》に被災者に遠慮することが増えた。背後にはおそらく、私たちの現実が、個々別々の固有の状況に分断されている、という思想が潜んでいます。

被災した人の気持ちは、被災した人にしかわからない。否、被災した人同士であっても、その度合いによって、味わった気持ちは全く異なる。作中、柊は同じように体育館に避難した人びとのことを語ったり、ある被災者と劇的な再会を果たしたりしますが、被災者同士だから心が通じあう――などということは一切描かれません。むしろ逆に、被災者同士でありながら、お互いの気持ちは全く違うところを向いている。まるで、全然別の場所にいて別のものを見てきたかのように。

誰かが、別の誰かについて何かを語ろうとすると、常に「本人でもないくせに」という批判がなされる。当事者のことは、当事者にしかわからない。それが「当事者性」です。それは、ある意味当たり前のこととしてずっと社会にあったわけですが、普段はそんなに気にせずに生きてこられた。「おもしろかったね」とか「つらかったね」といって、何となく「わかるわかる」という空気を作っていれば良かったわけです。ところが震災という現実は、私たちに「当事者性」をつきつけてしまった。「わかるわかる」では済まされない状況が生まれてしまいました。その反動が、「不謹慎」発言が跋扈するような状況へと繋がったのではないかと思います。

少し作品から離れたところに来ましたが、本作はそういう「当事者性」を通して見えてきた、人間の孤独な状況を踏まえた上で、それでも人と人とが繋がって生きていくということを描こうとしています。表面上はそのことは、「恋愛」として描かれますが、そこに終始しないところがこの作品の魅力でしょう。

「柊鰯」というタイトルからもおわかりのように(イワシの頭と柊をひっつけた、節分の時に飾るアレです。一応画像)、作中には日本の伝統文化みたいなことがよく出てきます。もともとシナリオライターの方が民俗学系のテーマを好んで書いておられたという事情もあるのでしょうが、とにかく本作では作中言われているところの「伝える」ということが(伝統、という言い方になるとまたややこしい問題が発生するので、敢えて避けました)問題になります。柊が、祖母から伝えられた料理の味、掃除の方法……。そういったものの中で、鰮や柊は過去から現在、そして未来へと続く、人との繋がりを実感していく。

紹介のところで、鰮が引きこもり気味だという話をしました。これは単に、鰮がコミュ障だったとかそういう話ではありません。彼は常に卑屈な態度をとりますが、それは他人との絶望的な距離に誰よりも敏感だということの裏返しとして描かれています。理解されないこと、理解できないことを、諦めてしまっている。

けれどそれが、柊の登場によって劇的に変化するわけです。鰮は、柊に寄りそいたいと思う。たとえ理解できなくても、それでも柊を支えたい、と。その鰮の想いは、愛と呼ぶなら愛でしょうし、実際問題「好き嫌い」という恋愛沙汰として主には描かれているのですが、たぶんその恋愛の成就が普通と少し異なるのは、それが「伝える」という形で達成されているというところ。

表だってはタイトルの通り、柊と鰯の関係がメインの物語ですが、上のような問題を踏まえると、桜の存在感もにわかに大きくなってきます。

柊鰯02
鰮の最大の理解者・桜さん。可愛いすぎます。

本作の本当の意味でのキーパーソンは、私の個人的な趣味はおいておくとしても、おそらく桜でしょう。柊は、いわばきっかけにすぎない。鰮が桜に告げた、ラストシーンの「お礼」の言葉がそのことを端的に示しています。物語の中で鮮やかに咲き誇る花は柊かもしれませんが、名前とは逆に、物語の地下深く、じっと根を張って最初から最後まで人と寄りそい続けたのは、桜なのですから。その意味で本作は、最後まで柊と桜と鰯の間の恋愛を描いていて、エピローグできちんとカタルシスを与えることに成功しています。

35歳と14歳の清らかな――というかこっぱずかしくなるくらい初々しい恋愛描写は、魅力といえば魅力ですが、2人の恋は好き嫌いとか、肉体関係とか、そういうものとは少しずれています(描写としてはそういう話もでますが)。恋の鞘当てみたいな展開も、「え、それで終わって良いの?」という感じで、そこまで盛り上がらない。逆に桜とはそっち系に走りそうなところもあるのですが、やはり煮え切らずにストップ。恋愛としてはおままごとチックというか、綺麗すぎて浮いている感じもします。

結局鰮の根っこにあるのは、相手の心を自分のものにしたいとか、すべて理解したいとか、そういう感情としては余り描かれません。むしろ、誰にとってもものの見方というのは別々であることを認めた上で、誰よりも深く相手のことを見ていたいという、そういう「自分」の側の感情として最後まで描かれているように思う。それは、普通の意味の「2人関係」としての恋愛とは、少し離れたところに位置づくものでしょう。

「この線路が交わったら脱線してしまうだろう。だけど、行く道は夕陽に明るく照らされている」

2人の道は平行で交わらないかもしれないけれど、それでも構わないのだ、と鰮は言うわけです。それでも自分は手を伸ばし、隣にいる人と歩んでいこう、と。そうやって寄りそって歩く先に、「道」はある。「伝える」ということと重ねて言えば、そうやって「道」を作っていくということが、人の営みであり、この作品で描かれている恋愛なのだと思います。

隣り合う2人の世界では完結しない、むしろ隣り合う2人が本質的には触れあうことができないということの先にある希望を見据えている。それは鰮が言うとおり、楽観的な祈りに似た見通しかもしれないけれど、バラバラになってしまった震災後の生を、明るく照らす光ではないかという気もするのです。

タイムリーに現代日本の問題を扱いつつ、恋愛を絡めて人の生き方の深いところへ届くような内容が描かれていて、これはいい話だなと思います。主張の内容自体はそんなに深くないというか、細かい難しいところはバッサリ捨てた楽観論という気がしないでもないですが、そのぶん与えてくれる心地よさや満足感があって、エンターテインメントとしての質が跳ね上がっています。

プレイ時間はだいたい3〜5時間くらいでしょうか。音声無しなので読みのスピードがそのまま反映されます。これで1500円は本当にお得(下手な映画に行くよりは断然こちら)。ちょっとした時間を使って前向きな気持ちになりたい人にお薦めの作品です。
▼蛇足的感想(ちょっと感じた不満など)
予想通り、あるいは予想以上にグラフィックが素晴らしくて、こちらの方面ではもう大満足。ただ、それで誤魔化せていますが、割とアラもあります。特にテキスト面。改行が多すぎなのがシステムにあっておらず(2行くらいの文章が次々に入れ替わるタイプ。普通の恋愛ADVのように横書きで、メッセージボックスが切り替わるなら良いのですが、縦書きで何行かまとめて表示される)、かなり読みにくい。そのうえ、鰮の一人称語りがとても内向的で、自分の話ばっかりウジウジしているので、本気でつきあうと結構しんどいです。文章のタッチ自体は軽いし、時々くすっと笑えるネタも仕込んであるのですが、言っている内容が内容だけに後半になればなるほどズブズブ感が出てくる。この辺は好みの問題ですが、作品自体の爽やかなイメージとひきくらべると、もう少し抑えめでも良かったのかなとか。

また、宮沢賢治や岡本かの子のネタ(岡本かの子はあの場面だと『食魔』のほうが来るかなとか思ったりしましたが)なんかは個人的に面白いと思ったものの、必要だったかは不明。「ものへの罪悪感」に関する民俗学的な西洋比較の考察なども含めて、ちょっとライターさんの趣味でとばしすぎた感じはしました。コミケ等に関するオタク的な作業のほうは、うまいこと抑制を利かせて(つまり、この辺の作業を細かく書けば「リアリティ」を担保した気になれるのですが、物語全体からするとそのリアリティっていらないところなので、自己満足にしかならない)綺麗に捌いていたのですが、こちらはちょっと気合い空回ったかなという。逆に作家視点でのものの見方に対する独白などは真に迫るものがあって、身を乗り出しました。

散りばめられた要素の意図は、何となく考えるに「ものごとをちゃんと見る」、ということかなとは思うのですが、文学や民俗学の予備知識が余り無い私は置いてけぼりにされた感じが。鰮のキャラ付けにとっては、深入り仕切らないところで避けてしまうぶん、かえってそれほど重要なファクターだとはどうしても思われなかったので、鰮よりもライターさんの顔が浮かんでしまうというか。読み進める中で入り込んでいた物語から、時々追い出されてしまう気分。まあそこまで大げさでもないのですが、細かいところは気になり出すと気になるかもしれません。ただ、どれも全体の雰囲気にとって致命的ではないと思います。


というわけで、本日は同人ゲーム『柊鰯』の紹介でした。言いたいことを言うつもりが、上手く言えないどころか批評空間さんの感想と大きく変わったことは書いてない気がしますが……うーん、しかもあんまりネタバレ抑えられてもいないのかな。まあ、致命的に魅力を損なうことを書いたつもりはないので、ちょっと切なくて暖かくなれる話が好きな方には、是非お試しいただければ。

それでは、また明日お会いしましょう。お疲れさまでした。

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コメント

プレイありがとうございます。

ご感想拝見しました、はじめまして、なかばやし黎明です。

自分の名前を検索に掛けた時
こちらのサイトを発見してしまい
思わず最後まで読ませて頂きました。

柊鰯の方プレイして頂いた上で
ここまで作品に対してを考察を賜り
夕街さんもきっと喜んでいると思います。

自分は単に締め切りに追われて(笑)絵を描いただけですが
作品をプレイして「何か」を考えて貰えたというのは
単純に嬉しかったのでコメントさせて頂きました。

大変ありがとうございました!

これからもレビューの方、続けて下さい(`´)

なかばやし黎明さん江

うわああ、はじめまして! 感想を読んで頂いたということで、恐れ入ります。

本文にも書きましたが、なかばやしさんの絵が非常に魅力的で、購入の大きなきっかけになりました。お陰で、このような素晴らしい作品と出会うことができ、とても感謝しております。

生き生きした桜さんや柊さんもさることながら、序盤の無表情な柊さん、表情をとりもどすきっかけになった涙のシーンなど、とにかく表情が素敵でした! あと、個人的には線路を二人で歩くあの場面。あのシーンが本当にとてもとても好きで、ひそかに壁紙にしているくらいです。

自分の話ばかりになってしまいました……。「戦国コレクション」はやってないのですが、日本神話好きなので「アマテラス」様は良さそうだなと思ったのですが、キャンペーン用とな……。手に入れられる類のものなのか、ちょっと調べてみよう(´・ω・`)

ともあれ、つたない感想をお読み頂いたうえ、コメントまで。ありがとうございました。

一層のご活躍をお祈りしております!

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