よい子わるい子ふつうの子

18禁PCゲームをメインに、ラノベや漫画についてもダラダラ話を書きます。長文多いです。

2013/04/10(水) 22:48:07

赤雪トナさんの『竜殺しの過ごす日々』(ヒーロー文庫)という小説があって、私は世界観や展開が好きなので読んでいるのですが、時々文章に「おや?」と思うことがあります。それは、たとえば次のようなところ。

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 ホルンはたしかに幸助が好きだ。だがそれは異性愛ではない。幸助と初めて会い、エリスの家でともに過ごした期間で母性愛が刺激され、可愛く手のかかる弟という認識になっている。

 ホルンが幸助に惚れるというIFの可能性を語るとすれば、それはホルンがヴァンテスに出会わず、一年ほど幸助と一緒に過ごした場合だろう。その期間で幸助が自信を持ち頼りになるところを見せたとき、ホルンの幸助への認識は変わるだろう。(赤雪トナ『竜殺しの過ごす日々 3』P.35-36)
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(ブログのテンプレート変えてデザインは気に入ってるんですが、引用タグ等使えないのが不便……。過去の記事とか死ぬほど見づらくなってると思います。そのうちなおしたいとは思っているけど、いつになるやら)

違和感の原因はハッキリしていて、キャラの心情を「異性愛」や「母性愛」のような概念を優先させて語っているというところ(具体的にはわからない)。もう一つは、語り手が強烈に作品世界を規定している――別の言い方をすれば、語り手の言うことが絶対に正しいと思わざるをえないような語り方になっているというところです。そう、まるで語り手がストーリーを「解説」しているかのように。

この二つの傾向は、どちらも心情のわかりやすさ、という意味において共通するものだと思っています。


んで、こういう物凄くわかりやすいかたちで心情を描写する表現というのは、どうも違和感がある……という話を友人にしたら、「最近の若い世代は本当に文章読めないから、これくらいわかりやすくしないとダメなんだよ」みたいな返事が帰ってきました。なんというテンプレ的若者蔑視。

しかしそれもやむを得ない部分はあって、一般のティーンズ向け文筆業をしている彼は、「言葉づかい」で編集チェックをくらいまくるそうです。曰く、「一段落三行以上にはするな」、「カタカナ語は極力使うな」、「漢語もできるだけ避けてひらがなに」等。短くしろ、簡単にしろ、というのが基本路線。でないと読まれない、とボヤいています。

書くほうからすれば意図や必然があって語句を使っているわけだし、語句に意味を凝縮できないのに「短くしろ」とはご無理ご無体なわけで、本当だとしたら相当気の毒なことだとは思います。

そして実際のところ、確かに文章の「読まれ方」は変わってきたかな、という印象を受けます。ここまでハッキリわかりやすい描写ではなくても、直接主人公たちの心理を描くという傾向は、ラノベについては浸透してきている感がある。もちろんラノベの数が増えているので全部読んでいるわけじゃないんで「平均的」なんてことは言えないのですが、昔は、もうちょっと婉曲的な表現が多かった……と思う。

私は結構古いラノベ読みに分類されると思うのでご期待に即して古いのを引っ張ると、たとえば、1995年に富士見ファンタジア文庫から出た『風の白猿神(ハヌマーン)』。主人公である古城宴(こじょう・えん)くんと、仲間のリーンさんの会話は、ざっとこんな風な描写になります。

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 それでも、なんとか取り繕おうとしたが、ついに観念した。重いため息をついて、吹っ切ったように淋しな表情をする。
「あの男はだめさ。あたしの気持ちに応えてくれるような人じゃない。基本的に人間が愛せない男なんだ。優しく微笑みながら、絶対に他人を自分の中に踏み込ませない……」
 こころなしか、頭上から燦々と心地よい光を投げ掛けてくる太陽が、陰りを帯びたような気がした。
 宴はずいぶんいけないことを言った気がして、言葉を失くしてしまった。
 しばらく二人は黙って草原を眺めていた。
「ははははは」
 ふいに愉快そうに笑いだして、リーンはおもいっきり宴の背中に正拳を打ちあてた。宴の情けない顔に、とびきり陽気な声とウインクを投げる。(滝川羊『神々の砂漠 ――風の白猿神』p.182-183)
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作者の滝川羊さんはこれが「生まれて初めて書き上げた小説」だったそうで、多少こなれていない感はあるものの、それだけに描写の癖がわかりやすくでている。

ちょっと太字にしたところを拾ってみると、地の文で、「ような」や「ように」が多用されているのが判ると思います。「気がした」なんかもそうですね。つまり、地の文では感情にまつわる事象を確定させない、というスタンスです。「吹っ切ったように」というのは吹っ切れていないかもしれないわけですし、「愉快そうに」というのは、愉快ではないかもしれない。婉曲的、というのはそういう意味です。


いやいや、そんなの当たり前でしょ。何言ってんの? と言われるかもしれません。ですが、意外とこの辺り、「読めない」という場合は多い。高校生くらいの学生に「ような」って書いてるでしょ、というと「なるほど……」と納得されるケースが結構ある。

小説に限らず論説でも同じで、たとえば私はさっき、「事象を確定させない」と書いたのですが、これが「確定的な事象は書かない」だと意味合いは随分変わってきます。少なくとも、「確定的」の「的」のぶん、ニュアンスはかわる。あと、「心理」といわずに「心情」という語を使うのとかもそうですね。「理」ではなくて「情」なのだと、一応意識して使っていたりはします。

でも、多くの人はそんな細かく文章を見ないし、気にしないでしょう。偉そうなことを言っちゃいつつ、私もこの辺の注意力が足りず、とにかく「読みが浅い」とか、「ちゃんと読んでない」と、散々怒られる人生を送ってきたわけですけれども。

っと、言葉遣いの慎重さや正確さ、語る内容の精密さみたいな話になるとちょっとズレるので、いったん話を戻しまして。

物語で登場人物の心情にまつわる描写に幅をもたせる、というのは、私にとっては比較的スタンダードで、そしてそれが物語を読む楽しみと繋がっている部分でもありました。「想像力」が働くと言っても良い。

同時期にファンタジア文庫で活躍されていた(過去形で書いちゃいましたが、今も現役ですよ)冴木忍さんなんかは、もうちょっと直接的な表現を使わずに、行為や情景によって心理を描写しよう、という感じが強かったでしょうか。たとえば、次のような感じ。

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「勝手なことを……!」
 鋭く叫び、リネットは床に突っ伏した。象牙色の髪が広がった。
「勝手に生きて、勝手に死んで! 死んでからも、勝手なことばかり言って!」
 叫ぶリネットの両の拳が、床の上で震えていた。彼女の今の心境がどんなものか、おれにはわからない。(中略)
 立ちつくしていたおれの耳に、リネットの低い嗚咽が聞こえた。(冴木忍『メルヴィ&カシム4 未来は君のもの』p.200-201)
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一人称がたりの小説であるという違いはあるにしても、「怒り」や「悲しみ」のような感情語はあまり出て来ません。そのかわり、場面が絵になって思い浮かぶ。きっとこんな格好で、こんな表情で、こんな声で泣いたんだろうな、と。

それは、カシム(語り手)が言うとおり、「他人にはうかがい知ることができない感情」でしょう。敢えて無理やりことばにしようとすると、どこかに嘘が交じる。「怒り」だとか「悲しみ」だとか、簡単にはことばにできない部分を描きとるために、そのシーンを具体的に想像させる、ということだと思います。


簡単な断定を逃れるという意味では、もっと極端な例もあります。太宰治は「自意識」の作家だ、のように言われたりしますが、それは文体の問題としてあらわれている。たとえば、次の文章をちょっと読んでみて下さい。

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夏のころであった、お慶は汗かきなので、切り抜かれた兵隊たちはみんな、お慶の手の汗で、びしょびしょ濡れて、私は遂に癇癪をおこし、お慶を蹴った。たしかに肩を蹴った筈なのに、お慶は右の頬をおさえ、がばと泣き伏し、泣き泣きいった。「親にさえ顔を踏まれたことはない。一生おぼえております」うめくような口調で、とぎれ、とぎれそういったので、私は、流石にいやな気がした。そのほかにも、私はほとんどそれが天命でもあるかのように、お慶をいびった。いまでも、多少はそうであるが、私には無智な魯鈍の者は、とても堪忍できぬのだ。(太宰治『黄金風景』)
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一見すると何の変哲もないようでいて、じっくり考えると、非常に面白い。というのも、語りと事実のズレを凄く感じさせるからです。語り手である「私」は、「肩を蹴った」という。しかし、お慶は「顔を踏まれた」と言うわけです。さて、どちらが正しいのか。

お慶が嘘を付いているのかもしれないけれど、無智で魯鈍ならとっさに嘘をつくとも思えません。それよりは、本当は顔を蹴ったのを、この「私」が自己正当化のために嘘を語っているのだ、と考えたほうが腑に落ちる感があります。

もちろん、正解はわかりません。わかりませんが、この作品は、「地の文」を疑わせる力がある。もっと言えば、「地の文」を疑った先に、「私」という人物の自意識のようなものが透けて見える。してみるとこの、お慶に対する罵倒も、単なる嫌いではなくて好きの裏返しだったかもしれない。後半そんな感じも出てきますし、実際。

そんな風に読んで見ると、描かれている人物や情景が、さまざまな相をみせてくれます。その複雑さのうちに、何か腑に落ちる心情が描きとられている感がして、面白い。(ちなみに私がエロゲーの『WHITE ALBUM』や『WHITE ALBUM 2』が面白いと思う部分の一つは、このように地の文が語り手の自意識であることを強調した描写の構造です。特に『WA』無印は顕著だったように思います)


で、たしかに楽しいんですが、こういう表現が読まれない/書かれないことを以て、文章力の低下だとか、読解力の低下だとかいう話にするのはどうなんだろうという気もします。まあ、最初に挙げた私の友人みたいなパターンで。

自分たちと「違う」ものを楽しんでいる人たちがいた場合、優劣の問題みたいな話にせずに、とりあえず何か違うものが見えている可能性はあるんじゃないか、という風に考えてみようかなぁと。

優劣の話にするのは、それこそ簡単なんですけどね。語彙を知らないとか、さっきうえで挙げたような、細かい部分を読まない/読めない、というのは紛れもなく読解力の低下であり、そのような読み手のニーズにあわせることで書き手の性質も変化していると言えなくはないのでしょう。議論としてはわかりやすいし、主張も明快で、記事を読んでくださる方にとってもツッコミを入れやすい。

ただ、一概に単純なものではないようにも思うんですよね。読む対象に注意を払わなくなったことだけが、結果ではない。逆に、これまでは無かったような可能性や想像力が広がっていたりはしないのでしょうか。

情景描写から心情を想像させるというのは、読解力を必要とす一方、割とテキストの束縛を強く受けます。悪く言えば、自由度は少ない。一方、「これは愛ではなかった」のような言い方って、ストレートで文章が読者を縛っているようでいて、実はどんな愛なのかは何も説明していないぶん、好き勝手に(自由に)読める部分もあるんですよね。「愛って何?」と問うても特に書いてないから、じゃあまあ、勝手に意味づけるか、と。それが楽しい、そういう楽しみ方ができる、ということは、「余白を読む」のとは違う、別種の想像力であろうかと。データベース消費と同じかどうかまではわかりません。

結局それが何なのかはハッキリわからないので、私は、私の感じる面白さを語り直すしかできなかったのですが、好き嫌いは措くとして違う種類の想像力を刺激するような物語が求められている、という可能性はあるんじゃないかと、新旧ラノベを読み返しながら、ぼんやりと考えたのでした。


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コメント

あら懐かしい

おお、風の白猿神〜うちも読みましたよ、ジャケ買いでしたが(笑)

さて、竜殺しの過ごす日々における感情の現状表記?についてはOYOYOさんと同様の違和感を感じました。
ただ、元々デビュー前のWeb小説が下敷きになってますし、作者自身が作中人物の感情面での状況把握をするという意味合いもあったんじゃないかと思ってます。

まあ、作中人物の感情表現を単純化してストーリーの対立軸などを明確にしその流れを読ませるのか、複雑な感情のその時その時の変化の中での掛け合いを読者に楽しませるのか…
結局、作者の見せ方(または読者の欲求)の問題でもあるのかなーと思ってもみたり。

ひかり&るなちーさん江

根強い人気のハヌマーン! いのまたむつみ先生の絵ですしね……。カバーイラストのメインが女の子じゃなくて主人公のラノベとか、今からすると逆に目立つかもしれない。

シータちゃんかわいいです。

私はもともとのWeb小説版を読んでいないのですが、もとはこういう文体ではなかったのでしょうか。ちょっと確認してみないとですね……。

感情を読ませるのか、その他(たとえば、プロットそのものを読ませるの)が目的なのかで、というのは仰るとおりだと思います。その場合は、「コナンくん」か「金田一くん」かの違いのように(動機も何もかも綺麗に解決するのか、やりきれない・わりきれないものが残るのか)なるのかもしれませんね。それぞれに違う味があるという。

web版とラノベ版

WEB小説版とラノベ版では基本的には同じです。ただ、WEB版ではしょった部分を補完する章がまるまる書き下ろされたりしてます。
また、皮むき器とかの話は相手役が別人に差し替えられストーリーも変えてあったりするので、WEB版との違いを楽しめるのですよね。
WEB版はまだネット上に残されてます。

ひかり&るなちーさん江(2)

おお。WEB版の加筆修正みたいな感じなのですね。

WEB版がまだ読める(赤雪さんの他の作品も)の、確認いたしました。折を見て楽しませていただこうかと思っています。細かい違いもあるようですし。

情報ありがとうございました!

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