よい子わるい子ふつうの子

18禁PCゲームをメインに、ラノベや漫画についてもダラダラ話を書きます。長文多いです。

2012/04/03(火) 09:10:00

水の都の洋菓子店
タイトル:『水の都の洋菓子店(パティスリー)』(すたじおちゃお/2012年3月23日)
原画:水上凛香/シナリオ:志村つゆり
公式:http://www.cellworks.co.jp/studiociao/mizu/main.html
批評空間レビュー投稿:済 → ネタバレ無し
定価:8800円
評価:B(A〜E)


拙文は批評空間さまに投稿しておりますので、ご関心があれば上記リンクよりご覧下さい。

▼攻略
キャラ選択画面で、攻略したいキャラを選ぶだけです。あ、一応ネタバレ的に麻里は後回しのほうが良いかも知れません。もしくは、全部わかったうえで物語を進めたいなら一番最初。

▼物語
幼い頃、母に食べさせてもらった誕生日のショートケーキ。その余りに印象的な味に魅了された神田純は、菓子作りに打ち込み、とうとうパティシエになってしまいました。幼い頃済んでいた、ヴェニスを模した「水の都」で純が洋菓子店「ロワゾ・ブリュ」をオープンさせるところから、物語は始まります。

純が店を開くことになった場所は偶然にも、高村光太郎という天才パティシエが店を構えていた場所。そして、この街では光太郎の存在は伝説でした。誰もが口を開けば、彼のつくる素晴らしいケーキについて語り出す。純のケーキは褒めて貰えるけれど、誰も「美味しい」と笑顔を見せてはくれない……。

そんな状態に悩む純でしたが、ふとしたきっかけで光太郎の娘・高村未果と知り合い、彼の「隠し味」が、《人を幸せにする魔法》であったことを知ります。昔の味を求める街の人たちと、職人として魔法を使うことに納得しきれない純。さて、「水の都」で、彼はどんな店を実現させるのでしょうか。

▼感想
批評空間投稿感想 はこちら。以下は、投稿感想も踏まえつつ、書ききれなかった部分や内容の都合上外した部分についてです。

点数的には「C」評価の点数なのですが、お薦め度的に「B」としました。楽しい音楽を聴き終わった後のような気分にしてくれる、とても良い雰囲気の作品です。

とにかく、テキストがキレてる。会話中心なのにしっかり状況がわかる読みやすさもさることながら、ギャグが冴えまくっています。「む、ムッシュ?」「牛若丸と呼ばれた名ショートのことですね」(阪神タイガース吉田義男氏のこと。現役時代のあだ名は「牛若丸」)のように、ちょっと若い人はついていけないんじゃ……というネタも多いのですが、その辺は不自然にならない程度にフォローが入っている(上の例でいえば、「牛若丸と……」あたりが)。ボケ―ツッコミという基本をきちんと踏まえて、しかもマンネリ化させずにネタを展開してくれるので、ネタの豊富さを自慢してユーザーを試すような「元ネタ探しゲーム」になることも無し。キャラのかけあいとして楽しめるのが、非常に良かった。

ただまあ、「ただちに人体に影響を及ぼす確率はかなりゼロに近いなり」とかは、やや不謹慎ネタかな、という気もしましたが。いや、不謹慎なのが悪いというのではなくて、作品の雰囲気的にこのテのネタは入れない方が良いだろうという。なんかもっとブラックな話なら良いのですが。

あとは、直接的な表現が少ないことも良かったでしょうか。私はテキスト系を重視するので余計かもしれませんが、描かれている内容は単純でも、描き方が単純でない。たとえば、次のシーン。
乃梨子 「とりあえず謝っておきましょうよ。怒ってる人がいたら、謝っておくのが私たちの生き方じゃないですか!」 
 「そうだね! 桐野さんも僕もそっちのグループだもんね!」
これ、ヘタをしたら「桐野さんは自己主張しないよね」「マスターもですよね」とかで終わってしまいかねない部分というか、言いたい内容はそういうことだと思います。でもそれを、上のような書き方にするのがやっぱりセンス良い。私はいま、「自己主張」という語を試しに使いましたが、最近は書き手も読み手も、簡単に「それらしい言葉」で感情や状況をまとめようとしてしまいます。

具体例はまあ何でも良いのですが、わかりやすいのは落胆とか。「彼女はとても落胆した」と規定しておけば、それで何か言えた気になって安心する。でも、それって単に概念を先行させているだけで、内容は描写していないんですよね。「主人公の前では笑顔をみせながら、一人になったときに肩を落としている」とか、「周囲にすぐそれとわかるくらい暗い雰囲気をまき散らしている」とか、そういう描写の中にこそ、「どのくらいの程度、どんな気分になったか」が具体的に見える。概念で括ってしまうのは、確かに安定した表現かもしれない。けれど、書き手の解釈と読み手の解釈をぶつけあうだけで、結局そこに物語の世界は拡がらないのだと思います。

上に引用したような掛け合いは、謝ってばかりという自分のありかたをそこまでポジティブには捉えていない乃梨子の自意識だとか、それでも円滑な人間関係を優先する物腰だとか、そういう微妙なもろもろを含んだ、彼女の感情のトータルがうまくにじみ出るようになっている。感情を簡単に言語で括って手抜きせず、態度としてキャラクターを描くというのは、私的にはとてもポイントが高くて(そして世間一般で「深い」と褒められている作品の半分くらいがあんまり好きでないのは、もの凄く安易にキャラや状況を言語で括ってしまっていて、実は全然深さが見えないからだったりしますが)、丁寧にその辺を拾っているこの作品は楽しめたわけです。

声優さんの演技も良くて、特に金田まひるさん(麻里役)は相変わらず凄い。モノマネやら、急にドスの効いた声になるやらもそうですが、「あー、あの置物売れへんと、私の口が勝手に動いてまいそうやわー。他の店員の前でさっきのエレーヌの言葉言うたらどういう反応示すやろか」のように時折挿まれる浪花の商人口調。ほぼ完璧なイントネーションで、20年関西に住んでいた私でも全く違和感を感じませんでした。……いや、別に関西弁が良いとかそういう話ではなくて、各声優さんの魅力を抽き出せるような、あるいはその声優さんにユーザーが求めているイメージをうまく増幅させつつ、それを良い意味で裏切るような工夫がしてありました。

総じて、面白さが独りよがりにならず、ユーザーを楽しませよう、楽しんで貰おうという姿勢が伝わってきて好印象。

細かい欠点は結構あって、特に共通ルートが長くてダレることとか、逆に必要なエピソードが抜けて余りにご都合主義にしか見えないところとか、盛り上がりそうなイベントが一瞬で終わって余りに呆気ないこととか。まあ共通に関しては、『パルフェ』っぽいシステムを選択した以上どうしようもないっちゃないところですし、イベントのぶっとび具合に関してはそのお陰でテンポの良さが確保されたし、ヘタにくどくなってしまうよりは数段マシだとは思います。ただ、やっぱり必要以上に平坦になってしまった感はあります。

しかし、それを補ってあまりある好展開。「結び」が呆気なくて拍子抜けだ、という評価が散見されますが、私としてはむしろ逆というか、そこにこそこの作品の良さがあると思っています。批評空間さんの感想はそのことをメインに書いたのですが、本作はこの作品が終わった地点から、純たちの本当の物語が始まる、そういう「スタート」を描いた作品になっている。もちろんEDでは「その後」が多少描かれたりもしますが、更にそこから、「水の都」と「ロワゾ・ブリュ」の世界は続いていく。この作品のEDは新しい物語の始まりであって、完成ではない。だから、そういう盛り上がり方になっていると思います。

これで完成、というガツンと強烈な満足を求めていると拍子抜けかもしれませんが、これから先に思いを馳せて胸躍らせるような、そういう終わり方だと言えるのではないでしょうか。

あと、批評空間さんのほうで一部気になる感想があったので、最後にそれだけ。ネタバレになっているのでご注意くださいですが、◆lainmistさんのご感想
エレーヌとオーナーは誰かというやりとり→あっさりとエレーヌがオーナーという場面では「はぁ?」と思わずにはいられませんでした。
日常パートの主人公は良い人だなーでよかったのですが、職人として考えると?がつく感じでした。
これは、たぶんエレーヌと雑誌のインタビューを受けたときの話だと思うのですが、言い争っていたのはどちらがオーナーかではなく、どちらがシェフ(パティシエ)か、です。そして、純が言ったのは「職人として腕が劣ってるのに、シェフを名乗るなどおこがましい」であって、むしろプライドの表現として描写されていたと思います。

あと、「身内票で圧勝」も酷い、ということになっていて、これもエレーヌの最後のところだと思いますが、描かれていたのは「身近なところにある幸せをこそ、皆が求めている」ということではなかったか、と。街の人がちゃんとそういう台詞を言っていますし。

別にlainmistさんのご感想に文句をつけたいわけではありません(それなら、ご本人に直接コメントをつけます)。言いたかったのは私が途中述べた、この作品が「簡単に「それらしい言葉」で感情や状況をまとめようとしていない」ということ。上のような部分を、直接的な感情言語にして語っていたら、おそらくこういう「誤解」は生じないのだろうと思います。でも本作は、そういうわかりやすさは捨てている。だから、そういう意味ではちょっと読むのに気を遣う部分もあるかもしれません。雑に読むとつまらない。

でも、丁寧に読むと結構いろいろ工夫が施してあって、割と楽しめると思います。期待作品がずらりと並ぶ3月〜4月の戦線で埋もれてしまうかも知れませんが、それにはちょっと勿体ない、良質な作品でした。これがブランド処女作ということで、次も期待したいですね。

といったところで、本日はこれまで。それではまた明日お会いしましょう。

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